去る11月5日、国税労組は、単組委員長を交渉団として内閣人事局との交渉を行いました。
 冒頭、交渉団長の澤本中央執行委員(大阪国税・委員長)から勝俣参事官補佐に対して要求書の手交をした。
 交渉議題3本及び現場の声2本を各単組委員長から発言を行い、当局の見解を求めた。

目次
1 定員の確保 発言:桑原副中央執行委員長(関信国税・委員長)

【組合】
 税務行政の執行水準を維持するための定員を確保すること。
 近年の社会経済情勢の変化に的確に対応した税務行政を推進し、申告件数の増加及び新規滞納税額の発生などにも対応していくためには、定員の確保が必要不可欠である。
 国税庁は、令和7年度予算概算要求において、インボイス制度の円滑な実施及び制度の定着並びに消費税不正還付事案への厳正な対応や経済社会のデジタル化・グローバル化に伴う調査・徴収事案の複雑・困難化への対応の観点から、674人の増員要求を行った。
 一方、令和7年度の国税庁の定員合理化目標数は552人とされており、この結果、令和7年度定員の純増要求は122人となった。
 私たち国税労組は、その満額査定を求めた運動を展開している。
 国税庁の定員は、令和6年度末で55,996人と、ピーク時であった平成9年度末の57,202人から1,206人の純減となっている。
 このような状況の中、令和6年度予算における定員は、インボイス制度の円滑な実施への対応、消費税不正還付や国際的な租税回避への対応等のため、税務執行体制の整備を図る観点から、36人の純増となった。
 また、令和5年度末の時限定員25人の減員と、定年引上げに伴う特例的な定員等による384人の増員を加味した結果、令和6年度末定員は、395人純増の56,380人となり、査定当局が国税の厳しい職場実態に対し、一定の理解を示したものと考えている。
 これまで、国税庁では、各種システム、e-Tax等の改修・開発に取り組むことで、事務処理のICT化を推進してきたほか、業務の必要性や実施体制の見直し、既存の事務処理手順の見直し等により、事務運営の効率化を図ってきた。
 しかしながら、税務行政の根幹である税務調査の実調率は低調なまま推移し、新たに導入されたインボイス制度や業務効率化に資するDXへの対応など、定員増加による執行体制の強化が急務であるため、国税の職場における定員要求については、次の2点を申し上げる。
 1点目は、「インボイス制度の円滑な実施及び制度の定着に対応」の観点から増員すること。
 令和5年10月、消費税の仕入税額控除の方式として、インボイス制度が導入された。
 国税庁では、納税者へのインボイス制度に対する理解を求め、全国各地での説明会の開催や事業者への個別接触等の対応のほか、新たなインボイス登録者には、消費税の仕組みや軽減税率制度も含めた相談等を行っているため、増員していただきたい。
 2点目に、「業務効率化に資するDXに係る定員」の観点から増員すること。
 国税庁では、「納税者の利便性の向上」及び「課税・徴収事務の効率化・高度化」などを柱として、税務行政のDXに取り組んできたことを踏まえ、大規模システムの整備やデータ活用の推進といった取組を進める人員の確保が必要となる。
 また、納税者に、PC・スマホ等のデジタルツールを活用して確定申告を行う際に必要となる、e-Taxや確定申告書作成コーナー等のシステム開発及び改修並びに、マイナポータルとの連携拡大等に加え、AI・データ分析を活用した課税・徴収事務の効率化・高度化を行うための定員が必要となるため、増員していただきたい。
 内閣人事局におかれては、国税の職場の厳しい実態を真摯に受け止め、予算概算要求による定員確保のみならず、令和6年度末に期限を迎える時限定員の期限延長についても、最大限の配慮をいただきたい。
【当局】
 定員合理化について、厳しい状況であることはご理解いただいていると思う。
 その上で純増要求122名に関しては、様々な制約もあることはご理解いただきたい。
 各省庁重要な役割を担っており、全体のバランスの中ですべての要望に応えることができないことはご理解いただきたい。
 全体として満額回答は難しいところであるが、インボイス制度を定着させるように体制を整備することは大事であることは重々承知しており、要望に応えられるかどうかは判然としないがしっかりと厚めに措置したい。
 また、DXに関しては、内閣人事局としても将来的により効率的な働き方を実現していけるようにするためにしっかりと投資すべき課題と承知している。
 なんとか確保できるようにしていきたいと考えている。いずれにしても、いただいたご意見は少しでも現場の課題を解決できるような措置ができるように考えていきたい。

2 機構の充実 発言:段之上中央執行委員(四国国税・委員長)

【組合】
 社会経済情勢に適応した機構の充実を図ること。
 経済社会のグローバル化やデジタル化等により税務行政を取り巻く環境が変化する中、限られた人員等を有効に活用し、真に調査必要度の高い納税者に組織全体として効果的・効率的に調査を行うことで、多様化する課税上の問題に的確かつ迅速に対応し、納税者等のコンプライアンス水準の維持・向上を実現する必要がある。
 これら社会経済情勢に適応した機構の充実を図るため、国税の職場では、高度な専門知識を有し、かつ、豊かな経験と能力を持った各種専門官の増設が急務となっている。
 そのため、国税の職場における機構要求に関しては、次の4点を申し上げる。
 1点目は、消費税不正還付事案へ厳正に対応する「消費税専門官」を増設すること。
 近年、消費税は国の基幹税として重要視され、平成26年の税率引上げ以降、消費税還付申告は、件数・金額ともに増大し、併せて悪質な消費税不正還付事案も多数散見されている。
 さらに、令和元年の税率引上げに伴い、不正還付への誘因は一層高くなることが想定される中、消費税の不正還付は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性が高い不正行為であり、特に厳正な調査を実施する必要がある。
 そのため、消費税関連の調査にあたる執行体制を強化し、深度ある調査を実施し不正還付を阻止するための専門職として、「消費税専門官」の増設を図っていただきたい。
 2点目は、国際的租税回避に対応するための「国際税務専門官」を増設すること。
 近年、海外取引関連法人の増加など、経済社会のグローバル化が進展する中、租税負担の著しく低い国や地域いわゆるタックス・ヘイブン対策税制や富裕層等による海外への資産隠しなど、国外で設立した法人や各国の税制・租税条約の違いを利用した各種スキームにより、税負担を免れる国際的な租税回避が問題となっている。
 国税庁としても、国際的租税回避に対処すべく、執行体制の強化に努めているものの、国際税務に精通した専門職が不足していることから、海外取引に関する情報収集や税務調査を専門的に実施する「国際税務専門官」の増設を図っていただきたい。
 3点目は、適正・公平な課税を実現していくための「審理専門官」を増設すること。
 納税者の権利意識の高まりにより訴訟社会への移行が進む中、納税者から信頼される税務行政を推進していくためには、事実認定と法令の解釈・適用に統一性・透明性の確保を図っていくことが重要であることから、「審理専門官」の増設を図っていただきたい。
 4点目は、複雑・困難な事案に対する実地調査及び高額・悪質な滞納事案に対処するための「特別国税調査官・特別国税徴収官」を増設すること。
 商取引の複雑化・多様化や所得隠しの巧妙化に伴い、調査・徴収事務の困難性が高まっており、より高度な知識と能力が必要となってきている。
 そのため、富裕層や大口滞納者などといった、より複雑・困難な事案を所掌する「特別国税調査官・特別国税徴収官」の増設を図っていただきたい。
 以上、4点の機構に関する要望は、国税庁においても、令和7年度予算概算要求において強く求めているところであるが、社会経済情勢の変化に柔軟に対応しつつ、より専門性の高い職務を遂行していくために真に必要なものである。
 全国524税務署の内、こうした専門官の配置がない税務署が多数存在しており、地方局においては、数少ない専門官が複数の税務署を受け持つ、いわゆる広域運営に頼らざるを得ない実態などを十分踏まえ、更なる機構の充実を図っていただきたい。
【当局】
 満額回答は現実的には難しいと申し上げざるを得ない。一定程度の措置をさせていただければ考えている。

現場の声  国際税務専門官の増設 発言:植手中央執行委員(名古屋国税・委員長)

【組合】
 経済取引のグローバル化の進展に伴い、適正・公平な課税・徴収の実現のため、また、国際的な脱税・租税回避に対処するためには、租税条約等に基づく情報交換を積極的に実施していくことが非常に重要です。
 税務調査では、調査対象者から課税に必要な情報を速やかに収集することが困難な場合は、調査の裏付けとして調査対象者の取引先等に対し反面調査を行い、深度ある調査を実施することにより、後の争訟を見据えた課税資料の収集に努めています。
 しかしながら、国際的な複雑・困難事案に対処する部署においては、国外の取引先に調査権限が及ばない等、課税に必要な国外情報の入手が困難な場面が多々あり、租税条約等に基づく情報交換に頼らざるを得ません。
 一方、租税条約等に基づく情報交換の回答に要する日数は、現在、局部署と庁の調整を含め、おおよそ3か月から半年程度の期間を要しており、適時の情報入手の妨げ、調査の長期化に繋がっております。
 相手国に早期回答を求めるのは難しいことから、国内の手続の迅速化により当該情報交換に要する期間の短縮が叶えば、私たち課税当局、調査対象者、双方にとって有益です。
 国際的な複雑・困難事案に機を逸せず、効果的・効率的に対応していくためには、「国際税務専門官」の増設に加え、当該情報交換に要する期間短縮も不可欠であることから、当該情報交換に関する国内での事務処理に当たる国税庁職員の定員の増加を求めます。

現場の声 消費税専門官の増設 発言:錦邉中央執行委員(福岡国税・委員長)

【組合】
 社会経済情勢等に適応した機構の充実のうち、消費税不正還付事案に対応する「消費税専門官」の増設について、現場の声をお伝えする。
 消費税不正還付事案への対応は、①提出された還付申告書に対する還付審査部署による審査、②不審点がある申告書に対する行政指導による還付原因に関する資料の徴求及び還付原因の解明、③徴求した資料では不審点の解明に至らなかった場合、実地調査を行うことが原則的な対応となる。
 消費税還付申告書の審査は、基本的には、税務署の法人課税部門で行っている。還付審査における資料徴求は税理士事務所に行い、形式上、提出された書類に不備があることはほぼなく、依頼した資料が提出されてからは、納税者又は関与税理士から、消費税の還付審査を早く終わらせるような督促を受けることとなり、税務署の担当者は、自身の調査事務を抱えながら、納税者、税理士からのプレッシャーを感じつつ、還付審査を行っている。
 また、消費税不正還付事案の調査は、通常の税務調査の困難性に加えて、売上先が海外であり実態を把握しづらく、また、多数の不審な仕入先が存在するため、反面調査等にかかる事務量は膨大なものとなる。
 また、納税者が修正申告に応じない例もあることから、更正処分に向けた証拠収集も必要となるなど調査期間が長期間となることが一般的である。
 さらに、消費税不正還付申告を行う者は、還付審査に通りやすい地域に本店を移すこともあり、広域的な対応も必要となる。
 よって、これらの不正還付事案を現場で指揮する消費税専門官の増設は、国税庁全体として、必要不可欠であると考える。

3 退職手当制度の見直し 発言:黒木中央執行委員(熊本国税・委員長)

【組合】
 魅力ある組織と優秀な人材確保のための退職手当制度の見直しを図ること。
 国家公務員の退職手当支給水準の見直しについては、平成26 年の閣議決定に基づき、概ね5年ごとに、人事院が民間の退職給付支給水準の調査を行った上で、その結果を内閣総理大臣及び財務大臣に対し表明することとされている。
 人事院における官民比較については、終身雇用が主流である公務の職場のあり方や、退職手当の性質など、民間の退職給付と単純比較できない実態を踏まえ、現行の調査手法や退職手当制度そのものを疑問視する声も聞かれる。
 定年までの間、組織のため懸命に職責を全うした功績や、長年に渡る労苦というものが適切に退職手当にも反映されるべきであると考えており、退職手当支給水準の見直しが行われるたびに、「生まれた年が悪かった」との諦めを職員に抱かせることに対し強い憤りを感じている。
 また、国税の職場で働く、行政職俸給表(二)等が適用されている職員においては、現行の退職手当制度では、退職手当の基本額に職員の区分に応じた「調整額」が加算されることになっているが、「調整額」は、低位級に属する職員に対する期間の計算がなく、3級以上で退職した行政職俸給表(二)等適用職員の場合、3級の在級期間が120 月を超える月分しか計算されない。
 行政職俸給表(二)等適用職員は、上位級への昇格に非常に厳しい制限があり、定年退職間際に3級昇格がようやく実現する職員も少なくないため、3級で120 月の在級期間を満たせず、退職手当調整額の加算を得られないケースが多々ある。
 そのため、退職手当の調整額の加算要件を早期に撤廃するなど、定年を迎えたすべての行政職俸給表(二)等適用職員に調整額が適用される制度となるよう、法改正を見据え速やかに検討していただきたい。
 退職手当は、勤続報償、賃金の後払い、退職後の生活保障といった性質のものである。
 定年までの長年に渡る貢献や労苦が適正に評価されなければ、有能な人材が流出しかねず、組織に与える影響は計り知れない。
 制度官庁である内閣人事局におかれては、こうした現場の実態にも真摯に耳を傾け、退職手当制度の見直しを検討していただきたい。
【当局】
 本職は行政組織(定員・機構担当)を担当する立場にあり、退職手当は人事行政(給与・退職手当)を担当する部署が所掌であるので回答する立場にないことをご理解いただきたい。